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英語をマスターするのに必要な学習時間

更新日:10月14日



1.日本人が英語をマスターするのに必要な学習時間は「最低でも2,500-3,000時間」


結局日本人は何時間英語学習を積めば英語が使いこなせるようになるのか?


この質問に関連してよく引き合いに出されるのが、アメリカ国務省の部局であるForeign Service Institute (FSI) に属する、アメリカ連邦政府職員に語学教育を施すSchool of Language Studies (SLS) が公表しているデータです(リンク先ページの下の方に記載されています)。


SLSがその76年にわたる語学教育の経験から割り出したそのデータによると、英語を母国語とする受講生が日本語を一から学習して、(スピーキングとリーディングで)「一般的な職業上の流暢さ」(General Professional Proficiency) を獲得するレベルに至るには、平均して2,200時間の授業時間、期間にして88週間(約2年)の学習が必要であるとされています。


なお、この「一般的な職業上の流暢さ」というのは、アメリカの連邦政府レベルで用いられている言語の習熟度の尺度における1つの水準で、より広く世界で用いられている尺度であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のC1、非ネイティブが受験する英語能力試験では英検1級・IELTS overall 7におおよそ相当するレベルと言われています。


 

SLSは日本語以外の60を超える言語についても同様の学習時間数を公表していますが、日本語は英語との差異が最も大きく、英語を母国語とする人にとって習得するのに最も時間がかかる言語とされています。


こうした言語間の差異を考えると、日本人が英語をマスターするのにも、アメリカ人が日本語をマスターするのと同様の時間がかかるはずなので、2,200時間の学習が必要だと言われることがあります。


もっとも、この「2,200時間」というのはあくまで「授業時間」のことで、授業に向けた自習の時間は含まれていません。


実際、SLSの学生は1週間当たり25時間、つまり平日は毎日5時間の授業を受けるところ、これとは別に最低でも授業時間に匹敵する時間を自習に費やすようなので、自習を含めた学習時間は少なくとも2,200時間の倍の4,400時間に及ぶと考えた方がよさそうです。


ただ、アメリカ人が日本語をマスターするには、平仮名・片仮名に加え2,000以上ある常用漢字を覚えなければいけないので、その分多くの学習時間を要するのに対し、日本人が英語を学ぶ上で覚えなければならない文字はアルファベットわずか26字だけなので、


日本人が英語をマスターするのに必要な学習時間は、SLSのアメリカ人学生が日本語の習得に費やす時間(4,400時間)より平仮名・片仮名のほか、大部分は漢字の学習時間分だけ少なくて済むと思われます。


 

この漢字の学習時間に関して、私たち日本人は小中学校の9年間で2,000を超える常用漢字を覚えますが、漢字の知識のない外国人がこれらの漢字を覚えるのにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?


創立20年を超えるある日本語学校のブログ記事によると、日本語能力試験で最上級のN1レベルに合格するには常用漢字の数に匹敵する2,000の漢字を覚える必要があるところ、これに合格するためには、もともと漢字の知識のある主に中国人は2,150時間の学習が必要なのに対し、漢字の知識のないその他の外国人の場合は3,900時間の学習を要するそうです。


つまり、3,900時間から2,150時間を差し引いた1,750時間が、漢字の知識のない外国人が純粋に2,000の漢字を覚えるのにかかる時間であると考えられます。


上述の通り日本人が英語をマスターするのに必要な学習時間は、大ざっぱに言って、アメリカ人が日本語の習得に費やす時間(SLSのデータで4,400時間)より2,000の漢字を覚えるのに必要な時間(1,750時間)だけ少なくて済むとすれば、日本人が英語をマスターするには最低でも4,400時間から1,750時間を差し引いた、2,650時間の学習が必要であると一応推測されます。


この2,650時間という数字自体大ざっぱなもので、また日本人が英語をマスターするのに必要な時間をピンポイントで予測するのは現実的でないので、この数字に幅を持たせて「最低でも2,500-3,000時間」の学習時間を要するものと考えるのが妥当です。


ただ、あくまでこの数字は語学に自信のある方がしかるべきインストラクターの下で集中して学習し、(スピーキングとリーディングで)「一般的な職業上の流暢さ」、つまり初歩的でなく最低限仕事で使えるレベルの英語力を獲得するのに必要な学習時間であることに注意する必要があります。


2.日本の小中高での英語学習時間


それに対して、現行の制度で日本の小中高あわせた英語の授業時間は以下の通りです。


小学校3・4年:年間35時間×2年=計70時間(1授業時間は45分)
小学校5・6年:年間70時間×2年=計140時間(1授業時間は45分)
中学校:年間140時間×3年=計420時間(1授業時間は50分)
高校:3年間で17単位(標準単位数)×35時間(1単位当たりの授業時間)=計595時間(1授業時間は50分)
合計:1,225時間

1授業時間は45分ないし50分なので、合計の授業時間を60分単位に換算すると1,000時間ほどにしかなりません。


仮にこの授業時間と同じだけの時間を自習にあてるとすれば、小中高あわせた合計学習時間は2,000時間で、さらにこれに大学受験のために英語を学習する時間も加えれば、日本人が仕事で使える英語をマスターするために必要な学習時間の「2,500-3,000時間」にかなり近づくようにも見えます。


もっとも、アメリカのSLSでは連邦政府で外交官や通訳になることを目指す、語学能力やモチベーションがもともとかなり高い大人たちが恵まれた環境で1週間に25時間のインテンシブな授業を受けているのに対し、


日本の学校、とりわけ小中学校の授業1時間の内容がSLSにおける授業1時間の密度に匹敵するはずもなく、また大学受験のための勉強は実際に使える英語を身につけるための学習とは異なることにも注意しなければなりません。


そのように考えると、(高校までの学習状況によって個人差は大きいですが)一般的な日本人が高校までに英語を学習した時間はSLSでの密度の学習時間に換算してせいぜい(授業と自習時間を合わせて)1,000時間ほどにしかならず、


高校卒業後英語学習の中断期間が長ければ高校生までに蓄積した学習時間はさらに目減りしてしまうと考えれば、仕事で使える英語力を身につけるのに必要な学習時間の目安(2,500-3,000時間)と比べてなおさら実質的な英語の学習量が足りていないようにも思われます。


よく「日本の英語教育はインプットばかりで、アウトプットが軽視されているから日本人は英語が話せないのだ」と言われますが、そもそも一般的には日本の小中高だけでは使える英語のインプットが圧倒的に足りていないから英語が話せないのだという具合に認識を変えるべきと考えます。


もちろん英語を話すために必要な学習は大学受験のためのものでなく実際のコミュニケーションの場で自ら英語を使いこなすことを意識したものでなければなりませんが、高校卒業後に実質的に足りていない英語の学習時間をどうやって補うのかを真剣に考えなければならないといえます。


3.まとめ


アメリカ連邦政府の語学研修機関のデータにもとづくと、日本人が仕事で使えるレベルの英語を身につけるためには、語学に自信のある方がしかるべきインストラクターの下で集中して学習する場合で最低でも「2,500-3,000時間」の学習時間が必要であると推定されます。


これに対し、日本の高校までの英語の授業時間数は約1,000時間で、これとは別に自習や大学受験に向けて英語を学習した時間を含めたとしても、実際に仕事などで使える英語を身につけるには質量ともに不十分と言わざるを得ません。


日本の小中高だけでは使える英語のインプットが圧倒的に足りていないから英語が話せないのだと認識して、高校卒業後に実際に使える英語を身につけるための学習を補う必要があります。





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