1.瞬間英作文とは?(パターン・プラクティスとの違い)
英語が話せるようになるために、瞬間英作文というトレーニング有効であるといわれます。
まだ英語を話すことに慣れていない日本人が英語を話す場合のことを考えると、はじめから日本語を介さずにいきなり英語で自分の言いたいことを言うというわけにはいきません。
よって次善の策として、まず言いたいことを日本語で考えて、それを英語に訳すという「和文英訳」を頭の中で行っているものと考えても、実際の英会話の場面ではそうするのにあまり時間をかけるわけにはいきません。
そこで英語の特定の文法項目(たとえば時制・不定詞・関係代名詞・・・など)が含まれた基本的な例文について、その日本語訳だけを見て反射的に英語に直せる「英作文回路」を自分の中に作ってしまおうというのが瞬間英作文の趣旨です。
たとえば不定詞であれば「私は今週末にサッカーをしたい」という和文を見たら、'I want to play soccer/football this weekend.' という英文が即座に口から出てくるようになるまで、繰り返し練習をします。
この瞬間英作文というコンセプトが日本で広まるきっかけとなったのが、森沢洋介さんが2006年に出版され、ロングセラーとなっている「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」(ベレ出版)という本です。
この本には何冊か続編があるほか、今では別の著者による同じようなコンセプトの本がいくつか刊行されています。
なお、瞬間英作文と似たものに、パターン・プラクティスというものがあります。これは一つの文をベースに、その文の文法要素を次々と変えて文法的に正しい英文を反射的に口に出していくという練習です。
たとえば ‘I study English.’ という文をベースとすれば、①主語を「彼」にして 'He studies English.' ②これを過去形にして 'He studied English.' ③これを疑問文にして 'Did he study English?' ・・・という具合にはじめの文を指示に従って順に文法的に正しく変化させていきます。
瞬間英作文を何度も繰り返しこなしていると生成する英文自体を丸暗記してしまい、自分で文法を正しく使いこなして英文を組み立てているかどうか怪しくなってしまいがちなので、応用力を試すために瞬間英作文の英文をベースにパターン・プラクティスを行うというのも一つの活用の仕方です。
瞬間英作文は特に初級者にとって最適のトレーニングですが、TOEIC L&Rのスコアが高い方であっても、自分で英文法の知識を使って英文を一から組み立て、英語で発話したことがほとんどなければ取り組むべきと言えます。
英文法といえばTOEIC L&RのPart 5のように英文の中に1つ空欄があり、文法的に正しい文を完成させるためにその空欄に入る語(句)を4つの選択肢の中から選ぶといった問題を数多くこなした方も多いと思います。
しかし言うまでもなく単に正しい選択肢の番号を解答用紙にマークすることは自分で自発的に英語の文を組み立てて発話することとは異なるので、TOEIC L&Rのスコアが高くても英語がうまくアウトプットできない方が一定数いらっしゃるのは当然といえます。
もっとも、このような文法穴埋め問題は英文法の知識を固めるうえで有効なことは疑いなく、瞬間英作文と並行して文法穴埋め問題を数多くこなすことで、英文法の知識を自分で実際に使いこなすことをイメージしながらより深く定着させることができるという効果が期待できます。
2.瞬間英作文は「補助輪付きの自転車」-いずれ卒業すべき
ただ、瞬間英作文はあくまでいきなり英語で発話するのが難しい方が「和文英訳」の要領で口頭で英文を作り出す練習であるため、こればかりしていると「まず自分が言いたいことを日本語で考えてから、それを英語に直して言う」という癖がついてしまいます。
いくら瞬間英作文のトレーニングをたくさんこなして、素早く和文英訳が口頭でできるようになったとしても、実際の英会話やスピーキングの場面でそうしているとなおも時間がかかりすぎで不自然な「間」ができてしまい、使い物になりません。
その意味で瞬間英作文はあくまで過渡的なトレーニングであって、最終的には日本語を介さずにいきなり英語で発話できるようになる必要があります。
自転車に例えれば、瞬間英作文のトレーニングは補助輪付きの自転車に乗ることであって、それができるようになったら補助輪を外して乗ることができるようにならなければなりません。
瞬間英作文で自分で英文法の知識を使って英文を組み立てることに自信がついたら、このトレーニングは卒業し、日本語を介さずいきなり英語で発話することを目指すように目標をアップデートする必要があります。
そのために英会話レッスンを闇雲に受けても英語で言えることが少なければ挫折するだけなので、それよりも普段やるべきことは英語のインプットを増やして自分で使える英語表現をたくさん吸収することです。
単語やフレーズは何度も繰り返し覚えて日本語を介さなくても無意識に自然と口をついて出てくるようにして、例文は音読をして正しい発音・リズムで発話することに慣れなければなりません。
また、単文レベルで英語で発話ができることを前提として、プレゼンテーションや英検・IELTSのスピーキング試験など、長めのスピーチをする場合のスピーキング力はライティング力と相関しているので、この意味のスピーキング力を上げるには日本の学校教育で鍛える機会のないパラグラフ・ライティングのスキルを伸ばすことが有効です。
このように瞬間英作文を卒業した後にやるべきことも視野に入れたうえで何のために瞬間英作文のトレーニングをするのか、その意味と限界を理解しておくことが大切です。
3.まとめ
瞬間英作文は特に正しい英文法で英文を組み立てることに慣れていない方にとって効果のあるトレーニングですが、その「和文英訳」の発想が実際の英会話やスピーキングの場面では邪魔になるので、英語を話せるようになるための過渡的なトレーニングと位置付けるのが妥当です。
自分で文法知識を使って英文を組み立てることに自信がついたらこのトレーニングを卒業し、以後は日本語を介さずにいきなり英語で発話できるようにするため、自分で使える英語表現のインプットを増やしたり長めのスピーチをするスピーキング力を高めることに英語学習の焦点をシフトしていくべきと言えます。